ワインとは何か？ 第５章 アルコール発酵と酵母（後篇）

銀座クラブチック ソムリエ 鈴木 昌武

皆さん、こんにちは。銀座クラブチック、ソムリエの鈴木です。

前回、アルコール発酵をつかさどる、「サッカロマイセズ・セレヴィシエ」（読みにくいので、以下、セレヴィシエと略します：笑）などの酵母などのお話をさせて頂きましたが、この酵母の研究をニュジーランド続けているサラ・ナイト博士によると、ニュージーランドだけでも、少なくとも295種類の遺伝子型の違うセレヴィシエがあり、地域によって遺伝子型の特徴が全く違うということを発見したそうです。

そして、同じぶどう果汁に異なる遺伝子型のセレヴィシエを混ぜると香りが全く異なるそうです。

なぜ、セレヴィシエの違いが香りに影響するかと言うと、それぞれの遺伝子型によって、「前駆体」の分解方法が違うために、結果として異なる香りになるそうです。（前駆体というのは、香り成分が生成される前の段階での物質の状態）

そんな、セレヴィシエは研究室で培養された培養酵母よりも、天然酵母の方がより立体的で奥行きのある香りになりますが、醸造のタイミングなどのコントロールが難しく、オフフレーバーといった望ましくない香りが混ざってしまうなどの危険性が高くなります。

培養酵母だと、ワイナリーが目指す味や、原料とするぶどうに合った種類の酵母を前もって選べます。

そして、その酵母だけを増やすように注意して醸造するので、目指す味や質が安定したワインが出来上がります。

最近では、新しくワインに向く酵母を発見しようとする研究もあり、海洋環境で発見された酵母の中に、ワインに適した性質を持つものが見つかったとの報告もあります。

研究次第では伝統的な味わいを作るだけではなく、新しいワインを作り出す可能性も秘めているのが、酵母という小さく偉大な生き物なのです。

ワインを飲む時に、これら酵母について考える人はまずいないと思いますが、どの産地のどの人物が造っているから凄いということだけではなく、酵母が頑張っているおかげで美味しいワインとなっていることを知って頂きたく、今回、“サッカロマイセズ・セレヴィシエ”という酵母の存在をご紹介させて頂きました。

納豆、醤油、味噌、漬物、鰹節などの日本の伝統的な食品、パンやチーズ、ヨーグルト、紅茶、キムチなどの発酵食品にも感謝しつつ、ワインを飲むのも悪くないかも？（笑）

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